私たちのおじいちゃん
年末、団地の1階に住む一人暮らしのおじいちゃんが火事で亡くなりました。
私たちが引っ越してきた時、引越しの作業を見ながら、気さくに色々話しかけてきてくれました。
初めは、めんどくさいおじいちゃんなのかも、なんて思っていたけど、全然そんなことはなく、会うと昔からの知り合いかのように「よぉ!」と手をあげて挨拶してくれて、知り合いなど誰もいない場所で、おじいちゃんは唯一の「知り合いのご近所さん」でした。
おじいちゃんは、団地内に友だちがたくさんいて、いつも誰かと立ち話をしていました。
時には、どこから持ってきたのか、自転車置き場の空いている場所にイスを持ってきて、座ってのんびり景色を眺めていることもありました。
いつも小さい緑の自転車に乗って、近所におでかけに行くようで、遠くからでもその姿を見たら、あ、おじいちゃんだとすぐにわかりました。
毎日、団地での生活や季節の移り変わりなどを味わって暮らしている人でした。
年末に近づいた頃、緑の自転車に乗ったおじいちゃんが前から来て、よぉ!と手をあげてくれて、こんにちは!と挨拶したばかりでした。
その日、私は酔っ払って寝ていて、夫が何かに気づいてベランダに出ている様子でやっと目を覚ましました。
外ではサイレンが鳴っていて、私たちの棟で火事が発生していることがわかりました。
ベランダから見ると1階に向けて放水しています。
おじいちゃんの家じゃない?
私は恐ろしくなってそれ以上見ることができませんでした。
その後のニュースで、おじいちゃんが亡くなったことがわかりました。
原因など、詳しいことはわかりません。
翌日には、警察が来て現場検証をしていて、その日から玄関のドアに立ち入り禁止のテープが貼られました。
前を通ると1ヶ月近く経過しているのに、まだ焦げ臭い匂いがします。
幸い、他の部屋に影響はなかったようです。
緑の自転車は、階段の下に置いたままです。
おじいちゃんは、団地の中で、人生の最後を楽しんで2024年と共に、この世を去ってしまいました。
その時、せっかく入籍したのに、私たちはつまらないことで言い合いしたり、怒ったりしていた時でした。
一瞬で目が覚めました。
身近にいてくれる人を大事に、楽しんで生きないとだめだよ、って言われた気がしました。
今でも、おじいちゃんがそのへんから出てきて、よぉ!って言ってくれるような気がしています。
名前も知らない、いつからこの団地に住んでいるのかも知らない、家族がいるのかもわからない、私たちのおじいちゃん。
私たちが、仲良く暮らしているのを見守っていてね。
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